いま必要な対策と支援(ワンデーポート通信206号より)

  • 2017.10.17 Tuesday
  • 17:01


厚労省からのギャンブル依存についての発表がありました。要約すると、以下のような内容です。
・ 調査は5〜9月に無作為に選んだ20〜74歳の1万人に実施し4685人が回答を得た
・ 生涯で依存症の疑いがある人が3.6パーセント(320万人)
・ 直近1年で依存症と疑われる時期があった人は0.8パーセント(70万人)
・ 最もお金を使ったギャンブルはパチンコ、パチスロ
・ 直近1年で依存症の疑いがある人の1ヶ月の賭け金の平均は5万8千円

 

報告書には、3.6パーセントとしか記してないにも関わらず、320万人という数字を強調し、「対策が必要だ」という新聞が多数見受けられました。有効な対策には、3.6パーセントや0.8パーセントに該当する人がどんな課題を抱えているか(可能性があるか)を見ていくことが不可欠だと思うのですが、そのあたりを掘り下げた新聞記事は私が見た範囲ではありませんでした。
国際疾病分類のICD-10には、「病的賭博」を「持続的に繰り返され、貧困になる、家族関係が損なわれる、個人的な生活が崩壊するなどの、不利な社会的結果を招くにもかかわらず、持続し、しばしば増強するギャンブリング」と記してありますが、70万人もの人がこうした状況に陥っている可能性があるということです

 

以下、私なり直近0.8パーセントという数字に隠されているであろう事実を考えてみました。私が皆様にお伝えしたいことは2点あります。一つは、生涯で3.6パーセント(320万人)が「依存症」の疑いがあるような状態にも関わらず、直近1年では0.8パーセント(70万人)に減っているということです。つまり、自己解決や自然に問題が消失している人が多いということです。私がこれまでに繰り返しお伝えしていることですが、「進行性の病ではない」ということが今回の調査で証明されていると思います。ある時点で、「依存症」の診断基準を満たしていたとしても、過度に深刻に考える必要はないと言えます(新しい疾病分類(ICD-11)でも12ヶ月間の状態で評価することが記されています)。70万人の人の中にも自己解決するであろう人が多数存在すると考えていいと思います。

 

月に5万8千円で「依存症」の疑いが示唆していること

もう一点、私が注目しているのは、直近1年で依存症の疑いがある人の1ヶ月の賭け金の平均は5万8千円(中央値4万5千円)だったということです。この賭け金を念頭に置いて、「依存症の疑い」に入っている人が、どんな問題を抱えているか見ることも重要だと思います。今回の調査はサウスオークス・ギャンブリング・スクリーン(SOGS)という質問票を用いています。

 

以下、SOGSの質問項目を記します。

(5点以上が依存症の疑いとされます)


1.ギャンブルで負けたとき、負けた分を取り返そうとして別の日にまたギャンブルをしたか。(選択肢 a.しない、b.2回に1回はする、c.たいていそうする、d.いつもそうする (cまたはdを選択すると1点))


2.ギャンブルで負けたときも、勝っていると嘘をついたことがあるか。(選択肢 a.ない、b.半分はそうする、c.たいていそうする (bまたはcを選択すると1点))


3.ギャンブルのために何か問題が生じたことがあるか。(選択肢 a.ない、b.以前はあったが今はない、c.ある (bまたはcを選択すると1点))


4.自分がしようと思った以上にギャンブルにはまったことがあるか。(選択肢 a.ある、b.ない (aを選択すると1点))


5.ギャンブルのために人から非難を受けたことがあるか。(選択肢 a.ある、b.ない (aを選択すると1点))


6.自分のギャンブル癖やその結果生じた事柄に対して、悪いなと感じたことがあるか。(選択肢 a.ある、b.ない (aを選択すると1点))
7.ギャンブルをやめようと思っても、不可能だと感じたことがあるか。(選択肢 a.ある、b.ない (aを選択すると1点))


8.ギャンブルの証拠となる券などを、家族の目に触れぬように隠したことがあるか。(選択肢 a.ある、b.ない (aを選択すると1点))


9.ギャンブルに使う金に関して、家族と口論になったことがあるか。(選択肢 a.ある、b.ない (aを選択すると1点))


10.借りた金をギャンブルに使ってしまい、返せなくなったことがあるか。(選択肢 a.ある、b.ない (aを選択すると1点))


11.ギャンブルのために、仕事や学業をさぼったことがあるか。(選択肢 a.ある、b.ない (aを選択すると1点))


12.ギャンブルに使う金はどのようにして作ったか。またどのようにして借金をしたか。当てはまるものに何個でも○をつける。(選択肢 a.生活費を削って、b.配偶者から、c.親類、知人から、d.銀行から、e.定期預金の解約、f.保険の解約、g.家財を売ったり質に入れて、h.消費者金融から、i.ヤミ金融から (○1個につき1点))

 

平成27年度の40代後半の平均年収は461万円です。この人たちが、月額5万8千円(年額69万6千円)をギャンブルに使ったとしてもSOGSで高い得点をつけるとは思えません。生活上に大きな問題を生じるとは考えられないからです。もちろん、結婚していて、子どもがいるという状況の中では点数が高くなる可能性もあります。主婦の場合もしかりです。しかし、5点以上になる人は多くはないと思います。
「5万8千円」という数字とSOGSの質問(カットオフ)を鑑みて、70万人に該当する人たちがどのような課題を抱えているのか想像して見えてくるものがあります。SOGSにおいて「依存症の疑い」に入る人の中には、実際には「問題がない」人が含まれているかもしれないということと、就労による収入が少ない人が多い可能性です。

 

深刻な状況になっている人が70万人いるとすれば、ギャンブルに起因する多重債務者や自殺者、犯罪が頻発すると思います。もう一度、ICD10の規定を記します。「持続的に繰り返され、貧困になる、家族関係が損なわれる、個人的な生活が崩壊するなどの、不利な社会的結果を招くにもかかわらず、持続し、しばしば増強するギャンブリング」

 

日本の総受刑者が5万4千人です。年間の自殺者が2万1千人、年間の自己破産申し立て6万4千人です。多重債務者については、いちばん多いときに比較し、10分の1に減っているそうです。こうした数字と「ギャンブル依存症」の疑い70万人という数字は整合性が取れないと思うのは私だけでしょうか。

 

SOGSの問題点
ところで、SOGSの質問項目は、ギャンブルという行為によって起きた事実について質問しています。ギャンブルをやる前のことは一切聞いていません。元々の金銭管理が苦手であったのかないか、基礎疾患はあるのかないのか、このようなことの質問はありません。従って、別の障害の診断があっても、「ギャンブル依存症」の疑いにカウントされます。私は、ここに問題があると思っています。
パチンコ依存の電話相談機関リカバリーサポート・ネットワークの2016年の報告書によれば、ぱちんこ以外についての質問に対し、問題なしと答えた人は694人、問題あり501人とされています。問題ありと回答した人のうち219人は狭義の精神障害と回答しています。このデータから見ても、パチンコ・パチスロが問題となっている人には少なからず別の疾患があることがわかります。ワンデーポートへの相談でも、知的障害や発達障害の診断がある人やその疑いがある人が多いことは、これまでもお伝えしている通りです。
今回の調査あたったK病院の医師は記者会見で、背景の問題には触れず、相談してほしいと言っていましたが、「ギャンブル依存症」という安易な診断によりほんとうに必要な支援が提供できなくなってしまう危険性があるのではないかと思いました。
「ギャンブル依存症」に偏った診断や支援を図にすると下のようになります。


Aさん、Bさん、Cさん、Dさんはギャンブルに依存しています。SOGSのスクリーニングでも、「依存症」の疑いがあるとされました。しかし、背景は軽視され、依存症に有効であるという自助グループと認知行動療法が導入されます。その結果は、Dさんを除く3名は問題が解決されないはずです。「治療」をしても変化がないのは、やる気がないとされ、さらに窮地に立たされてしまう可能性もあります。本来あるべき支援は、アセスメントを丁寧に行い、それぞれにあった支援が提供されることです。ギャンブルをやめるということではなく、その人全体を見て必要な支援が提供されるべきです。


ほんとうに必要な対策は「アセスメント」
320万人や70万人という数字は、「簡単なスクリーニングテスト」の結果であり、その数字を持って、「ギャンブル依存症」が深刻であるとか、「依存症」の治療が必要ということでないことは明らかです。むしろ、過剰診断や過剰に心配しすぎることや、「依存症」という決めつけにより、不必要な、あるいは間違った支援を受けるリスクを高くすること、本当に支援が必要な人に必要な支援が届かなくなってしまうことが問題だと思います。

 

70万人を依存症の疑いがあるとしても、支援が必要のない人たちと、支援が必要な人たちがいることがいることを明らかにして社会に伝えることも必要ではないかと思います。そのためにも、SOGSでは評価できない、元々の障害や生活課題をあきらかにするためにアセスメントの重要性を知ってもらわなくてはなりません。
アセスメントの必要性を知ってもらうために、どのような対策が必要なのか、ワンデーポートの現状とこれからのビジョンに触れながらお伝えします。
直近1年の70万人についても、諏訪東京理大の篠原菊紀先生は8割程度の人たちに自然回復が可能としています。先生の考えを踏まえて私なりにイメージした支援が下の図です。

 

 

三角形の頂点に近づくに連れて、支援が必要な人と考えてください。これまでのワンデーポートの入所カリキュラムにおそらく点線の丸に囲った当たりの人を対象としていたと思われます。相互援助グループや医療機関に相談に行く人たちもこの三角形の上部の人たちだと推測されます。その数は数万人だと推測しています。三角形の底辺部にいる人と、上部にいる人には背景に違いがあるのではないかと私は考えています。頂点に向かうほど、背景に障害やなんらかの弱さや社会参加の問題などを抱えていると思っています。反対に、底辺部の位置する人が背景は薄く、ギャンブルそのものが原因の人たちが多いと思われます。つまり自己解決が可能な人たちです。

 

ワンデーポートの新事業
先月号で理事長の稲村がお伝えしましたが、入所カリキュラムの新規の受け入れをストップしました。いつくかの理由を説明しましたが、ギャンブルの問題を持つ人が多様化していて、長期的な入所カリキュラムで対応することができる人が少なくなっています。いま社会では「ギャンブル依存症」という病を広げようという風潮があります。その結果、様々な背景があっても、「依存症支援」に過剰に期待している人たちが増えています。そして、支援が功を奏さず、さらに窮地に落ちてしまう人もいると思われます。点線の丸の部分の人たちも、近年多様化して支援が難しい人が増えているのではないかと思います。
そんな社会状況で、私たちの仕事はアセスメント(見立て)だと思っています。
・ 家族歴、成育歴の聴取
・ 生活の様子から評価
・ グループセラピーから評価
・ 医療機関での発達検査

これらの評価を総合して、その人にどんな支援が必要なのか(必要でないのか)を個別に見立てることです。表面的には依存行動が見られていても、「依存症支援」からは外れていく人も少なくないと思われます。
このカリキュラムの対象となるのは、厚労省の発表に重ねると70万人うちの数万人です。一部の人ですが、この層の人たちにはなんらかの「背景」の問題がある可能性が高く、深刻な問題を抱えるリスクを持っていると考えられます。闇雲に支援の幅を広げないことで、ピンポイントの依存症対策(必要な人に必要な支援が届く)取り組みになると思います。
ワンデーポートでのアセスメントを主目的にしたこの支援は、ゆくゆくは短期入所を想定していますが、財政的な課題もあり、すぐに立ち上げることはできません。しかし、対面相談、グループセラピーを通して可能な限りのアセスメントを行いたいと思っています。
お気軽に、ご相談、ご利用ください。

 

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